晴れ渡る空は青くて、見下ろす海も蒼くて。
 そういえば、海は空を映すから青いんだよと笑って言った人が居た。それは歌のパクリだろうと呆れながら言った人が居た。

 思い返せば懐かしすぎてそれだけで涙が出そうになる。



 ねえ、みんなは僕を憶えてくれていますか?
 もし今僕がそこへ行ったら、変わらずに僕の居場所はあるのでしょうか。
 ねえ、僕は一欠けらも残さず憶えています、みんなのこと。


 きっと、一生忘れない大事な記憶になるんでしょう。












          
『Hello and Goodbye, and Hello!!』












 「桃食!何ぼーっとしてる?」
 クラスメイトの声にはっと顔を上げる。今行く、と返事をしようとして、その言葉がこちらでは通じないものであることに気付き、慌ててこちらの――故郷の言葉に言い直した。
 すっかり日本語が染み付いてしまったんだな。思い、酷く複雑な気持ちになる。日本が嫌いなわけではない。むしろ好きだ、好きになった。あの人たちのおかげで。でも、結局どこまでいっても自分は中国人であり、それを忘れてはいけないのではないだろうか・と思うのだ。
 幼い頃から祖父母や周りの大人に聞かされてきた昔の話、そのために実際行くまで抱いていた日本という国への印象。そのまま抱いているべきとも思わないけれど、全部すっかり昔のこととして流していいわけじゃない。そう思う。
 ただ、あの場所で自分は、本当にかけがえのない人たちとかけがえのない三年間の記憶を手に入れてしまったから。
「……みんな、元気かナ」
 つい喋ってしまう。異国の言葉。見やる窓の外はきらきらと光を反射する海だった。
 今自分の通う大学は、海の真横にある。結果、帰国して三ヶ月足らずで再び親元を離れることになったのだが、海の見えるここが自分は好きだった。
 けど、好きと同時に、時々苦しくなる。嫌でも思い出すのだ、その向こうにある小さな島国のこと。

 ああいつまでも馬鹿みたい。
 でも、やっぱり、せつない。

 「桃食、窓見すぎ。そんなに海好きか?」
 からかい気味に言われて、別に、と首を振る。こちらの友達に面と向かって日本が懐かしいんだと言える自信は無かった。
 日本で世話になった人たちが好きなんだ、となら、言えるだろうか。少し考えて、やはり自信は無くて、俯き首を振った。何かを振り切るように。
「…じゃあね。また明日!」
「え、桃食、もう帰るのか?一緒に帰ろうぜ、お前いっつも一人じゃん」
「いいよ。気分じゃないし、今度ね」
 にこっと笑って手を振り、教室を出る。大学に野球部は無かった。







 アパートへの帰り道、長く続く真っ直ぐな上り坂。晴れた日の海はいつも眩しくて鮮やかだった。
(海って綺麗だよね〜。俺、海すきだよ。)
 いつだったろう、合宿と称してみんなで海辺の街まで遠出した時、いつも通りにニコニコ笑って彼は言っていた。
(手が届く空、って気がする)
 その時自分は、…どうしたか。ロマンチストだと言って笑っただろうか、ふぅんと首をかしげただろうか。
 今なら、ほんとだねと笑って頷くけれど。
 手を伸ばせば掴めそうで。行けば多分本当に掬える青で。間近で見たなら、そりゃあ透明だろうけれど、でもそれはきっと月のかけらが石ころであるのと同じようなものだ。
 空は青くて海も蒼くて。
 その淡い色はあの頃のあの記憶と少しも変わらなくて、足を運べばふっと戻れるんじゃないかという気さえしてしまう。一歩踏み出せば、何も変わらずに笑って手を伸ばしてくれるみんなが居る、そんな気が。
 足を止めて、まっすぐに海を見つめてみる。光がまぶしすぎて白いんだか蒼いんだかよく分からなかった。


 最後の日、あの時見た空、に。似ている。


















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